彗星命名のガイドライン

IAU Comet-naming Guidelinesの日本語訳


ガイドライン1: 発見の適切な報告について 1.1 彗星には通常、最初の公式な発表の時点でCBATにもたらされている情報に   基づいて名称が与えられる。発見観測は(すなわち発見者も)、CBATが意   味のある確認依頼を、観測者に直接、あるいはCBAT/MPCウェブサイトのN   EO確認ページを通じて行えるか、または発見をIAUCで発表できるような   観測とする。 1.2 確認依頼がCBATまたはMPCによっていったん広く行われたら(例えば電子メ   ールやウェブへの掲載)、その後にもたらされた発見の申告は、原則とし   て考慮されない。 1.3 IAUCの発行後にCBATに報告された独立発見は、通常命名のプロセスで考慮   されることはない。ただし次の場合を除く:    (a) その発見が行われたのが、その人が外部からのいかなる情報を得る      よりも前であることを明確に示すことができ、かつ    (b) その彗星が未命名であり、かつ    (c) すでにつけられることになっている名前が2名以内であること。 1.4 彗星の発見時刻は、眼視で最初にとらえた時刻、または発見画像が撮影さ   れた時刻とする。 ガイドライン2: 発見者について 2.1 彗星には、可能な限り発見者個人の名前(姓)をつけるものとする。 2.2 しかしチームの名前の方がふさわしいこともある。  (a) 発見者とは、最初にその彗星を(眼視で、または写真や電子画像上に)    検出した人(または人々)と定義する。発見者は、その彗星の位置や形    状についての正確な情報を取得し、CBATへ通報する(責任ある第三者を    介することもあり得る)ことに関して責任を負う。  (b) 過去には3名(まれには4名以上)の発見者の名前を冠する彗星もあっ    たが、可能な限り2名を上限とすることがのぞましい。4名以上の命名    は避けるものとするが、まれな例として、命名済みの行方不明の彗星が    再発見され、これにすでに名前がつけられている場合は、この限りでは    ない。  (c) 2名以上の発見者がいる場合、   (1) 発見者(またはチーム)の名前を発見の時刻順に並べ、   (2) 各発見者名をハイフンで区切ることとする。     (姓が2語以上から成る場合は、それらがハイフンまたはスペースの     いずれで区切られている場合でも、スペースで区切った名前を彗星名     とする。ただし簡素化のため、発見者はその中から代表的な1語を選     ぶことができ、これが強く勧められる)。   (3) 1か所または1チームの発見から2つ以上の名前はつけないものと     する(ガイドライン5に記された行方不明の彗星が再発見された場合     は例外となり得る)。  (d) 観測者やチーム(またはその代表者)は、IAUに対していかなる名前も    つけるように要求することはできない。最終的な命名プロセスは、この    ガイドラインに従って行われるCBATとCSBNだけの裁量である。3名以上    の観測者から成るチームについては、ガイドライン3.4(a)(2)を満たす場    合を除き、確立されたチーム名が原則として彗星名に使用される。 2.3 非常に明るい(たいていは太陽に近い)彗星が突然現れ、世界中でほとん   ど同時に肉眼彗星として観測されるようになることがある。このような場   合、発見者の名前をつけず、「大彗星」とか「日食彗星」といった総称的な   名前がつけられることがある。 ガイドライン3:チームについて 3.1 最近、プロの天文学者が(アマチュアさえも)チームでの観測中に彗星を   発見することが多くなっている。初期の発見報告には、発見事情について   の十分で信頼できる詳細な情報が含まれることが要求される。 3.2 ほとんどの発見はチームワークの賜物である(確認やそれに必要な軌道計   算は、発見者とは違う場所にいる人によって行われるという広い意味で)。   しかしここではチームをもっと狭い意味で、彗星を初めとする天体を探す   ための機材を備えた、公式に組織された天文学者のグループと定義する。 3.3 受け入れられるような1語のチーム名(長いチーム名の場合は、CSBNに受   け入れられるような略称も)が送られてきていれば、これを彗星名として   使用することができる。 3.4 チーム名がない場合、実際にその彗星を発見した個人の名前がつけられる   か、あるいは名前が全くつけられないこともある。   (a) 個人の名前がつけられるのは    (1) 同じチームから3人以上の名前がつけられることはない。他に独立      発見がない場合、チームのメンバーから2名の名前をつけることは      できるが、これは以下の条件をすべて満たす場合に限られる:       (A) チームのメンバーが2人であること。       (B) その2人が発見に直接関わっている(つまり観測や彗星像の         検出に携わっている)こと。       (C) その2人の姓が同じではないこと。    (2) 3名以上のメンバーがいるチームから、満足のいく証拠が書面で提     出され、彗星の発見、彗星であることの検出、位置と光度の測定(ま     たはこれらを行う自動プログラムの監視)、そしてその報告が1人の     観測者によって行われたことが明記されている場合、チームによる発     見であっても、チーム名ではなく、その個人の名前を彗星につけるこ     とができる。    (3) 2人の発見者の姓が同じ場合でも、1つの彗星に同じ名前が2つつ     けられることはない。   (b) 印刷物や電子的な形(たとえばウェッブ)で公開された画像やデータ     から発見された彗星に、個人の名前をつけるのはふさわしくないので、     通常は名前はつけられない。ただしその画像が、確立された観測プロ     グラムによって得られた場合はこの限りではない。そういった例では、     発見者は「チーム」の一員とみなされる。 例 C/1977 V1 (Tsuchinshan), C/1997 B3 (SOHO), C/1999 S4 (LINEAR),   C/1999 T1 (McNaught-Hartley), P/2000 C1 (Hergenrother),   P/2000 Y3 (Scotti), C/1992 U1 (Shoemaker) ガイドライン4:彗星であることが後で判明するケースについて 4.1 発見者が(1人であれ、2人であれ、チームであれ)、その所有する機材   では彗星活動に気がつかないことがしばしば起こる。そういった天体は小   惑星であると仮定され、2夜以上の観測が小惑星センターに報告された時   点で小惑星として符号が振られる(モーションが異常な場合は、符号が振   られる前にNEO確認ページなどに掲載される)。 4.2 発見者以外の観測者(個人でもチームでも)が、小惑星状天体が彗星状で   あることに気がつき、それがその観測者と発見者によって確認された場合、   次の条件を必須として、その観測者の名前がつけられることがある。  (a) 彗星/小惑星の二重性は、その天体の特異性が、それまで全く疑われて    いない場合にのみ起こり得る。つまりNEO確認ページに掲載されてい    たり、彗星状と指摘される前に特異な軌道が公表されていた場合、その    観測者の名前が彗星につけられることはない。  (b) 過去に特異性が疑われたことがなかった場合、新たに彗星と認められた    天体の名前は2つのパートから成る。1つは元々の「小惑星」の発見者    の名前から、もう1つは彗星であることを見出した人の名前からとる。    ただし各パートについて、次の条件を考慮する。   (1) 許される名前は(個人であれ、チームであれ)1つだけとする。     「小惑星」の発見が2人によって行われている場合には、そのうち一     方だけを使用することができる。   (2) 「小惑星」の発見がチームによって行われた場合、そのチームはメン     バーの個人名を彗星の名前として提案することはできない。 4.3 元々の発見者とは異なる追跡観測者によって彗星である(コマや尾が見ら   れる)ことが指摘された場合でも、4.2 の条件があてはまらない場合は、 彗星には元々の発見者(個人またはチーム)の名前1つだけがつけられる。 4.4 小惑星として番号登録された後で彗星であることがわかった場合、「二重   登録」とする。小惑星番号はそのままで、新たに周期彗星としての番号が   振られる。   (a) その「小惑星」が命名済みである場合、彗星としてもその名前を使用     する。   (b) その「小惑星」が未命名である場合、本ガイドラインに従って命名さ     れる。その名前は、他の小惑星と同じでなければ、小惑星としての名     前にも使用される。 例 P/1997 B1 (Kobayashi), P/1999 DN3 (Korlevic-Juric)   C/2000 WM1 (LINEAR), 95P = (2006) Chiron   107P = (4015) Wilson-Harrington, 133P = (7968) Elst-Pizarro   P/2001 BB50 (LINEAR-NEAT) ガイドライン5:彗星名の変更について 5.1 CBAT及びCSBNは、公平性や簡素化に利するよう、行方不明の周期彗星の再   発見や、彗星名が複雑なケース(たとえばスペルの間違いや発音符号の抜   けが判明した場合など)については、これを変更することができる。しか   し、そのような変更はまれにしか行われないだろう。 5.2 非常に多くの短周期彗星が、不十分な観測による軌道要素の不確かさのた   めに行方不明となっている。時々こういった彗星が再発見されるが、新し   い名前がつけられた後で、過去の出現と同定されることがある。命名前に   同定を探す努力はなされるが、現実には、それがすぐにできるとは限らない。   (a) 彗星の名前は、通常最初に軌道要素が公表される時に、CBATによって     IAUC上で発表される。過去に観測された彗星(特に行方不明の彗星)     に新たに名前をつけることがないことを期待してのことである。   (b) 時にこれはかなわないことがあるので、新しい名前がつけられてしま     った後で行方不明の彗星と同定された場合、元の名前に新しい名前を     追加するものとする。 5.3 新彗星が、後になってずっと以前の小惑星としての観測や、それまで知ら   れていなかった彗星のイメージと同定されても、最初に彗星名が公表され   た後では、それに追加されることはない。 5.4 新彗星の名前が公表される前に、同じ回帰に小惑星として1か所から2夜   以上の観測が報告され、小惑星としての仮符号がすでに振られていれば、   その発見者は彗星の名前に採用される。ただし他の名前が1つである場合   のみとする(計2名)。 5.5 簡素化のため、20世紀の大半で行われていたような、同じ発見者による   彗星の名前に番号をつけることは行わない。これは単に事を複雑にするだ   けである。公式には、過去につけられた短周期彗星の番号をそのまま残す   必要はない。なぜなら、しっかりした符号システムならその必要性を取り   除けるし、番号をつけることに関するいかなる論理も誤りであることを、   歴史的な事実が示しているからである(人によって異なる番号が使われた   り、最近まで使われていた番号にも歯抜けがあったりした)。 例 C/1955 N1 (Bakharev-Macfarlane-Krienke),   C/1980 O1 (Cernis-Petrauskas), C/1997 L1 (Zhu-Balam),   2P/Encke, 27P/Crommelin, 97P/Metcalf-Brewington,   146P/Shoemaker-LINEAR ガイドライン6:命名されない彗星について 6.1 CBATとCSBNは命名を遅らせる権利を有する。その理由には次があげられる:  (a) 観測から長期間が過ぎて発見され、もはや観測不可能である。ただし、    宇宙空間にあるコロナグラフで発見され、チーム名がつけられる場合を    除く。  (b) 観測の不十分さや短いアークのため、軌道が決定できない。こういった    ケースでは、符号に"X/"がつけられる。  (c) チームのメンバー間で合意が得られていない。 例 C/1931 AN, C/1996 R3, C/1997 K2,   P/1997 T3 (Lagerkvist-Carsenty), C/2001 HT_50 (LINEAR-NEAT)                              (中村彰正氏訳)