観測の実際

☆ ダークフレーム準備

よく使うチップ温度、露光時間でのダークフレームをあらかじめ用意しておく。カメラによっては撮影中のチップ温度変化が避けられないため、設定温度の前後数℃でのダークフレームが必要である。例えば -30 ℃で撮影する場合、- 32 ℃、- 31 ℃、- 30 ℃、- 29 ℃、- 28 ℃の各温度のものあれば充分だろう。

私のカメラはダークフレーム撮影中のチップ温度変化はないようだが、シャッターを開けると温度が上昇する。概ね露光開始直後から 40 秒後までほぼ直線的に 5 ℃上昇し、その後緩やかに下降する。シャッターが閉じるとその反動か、温度は急降下する。- 30 ℃・4 分露光で実験したところ、40 秒後に - 26 ℃、4 分後には - 32 ℃であり、3 回試してほぼ似た結果が得られた。経過時間と温度をグラフにし、面積を求めて時間で割ると平均温度が求まる。温度変化の具合は必ずしも直線的ではないが、その平均温度は - 28 ℃から - 29 ℃の間にあった。露光時間が異なれば平均温度も異なる。全ての温度について実験しておくべきである。

チップに光が当たってはならないが、シャッターの付いているカメラなら蓋をするだけで間に合うと思う。

各温度、安定した状態で、各露光時間のダークフレームを 4 フレーム程度撮影し、メディアンコンポジット画像を作る。

温度を変えるときは安定するまでしばらく待たねばならない。忍耐を要する作業である。

☆ 撮影準備

ニュートン式反射をドイツ式赤道儀に載せたものを使っているのであらかじめ接眼筒の軸を赤緯軸と平行に、そして接眼筒が極軸側に来るよう(ニュートン反射に重いカメラを接続するとバランスが崩れやすい。極軸側にカメラがあればバランスウェイトの軽減にもなる)鏡筒の向きを決めておく。

鏡筒を極軸の東に置き(この状態をテレスコープ・イーストと称する)天の赤道上、子午線付近へ向けると接眼部を覗き込む姿勢は真東を向くことになる。この状態でカメラ上下端の水平線を鏡筒のラインに合わせれば写野は画面北が常に上あるいは下にくることになる。試験撮影して画面の上が常に北になるようカメラの向きを決める。テレスコープ・ウェストではカメラを 180 度回転させればよい。目視作業だが回転角が 2 度を越えることはまず無い。

観測室に入るとまずドームスリットを開き、赤道儀、カメラ、パソコンの電源を入れる。

赤道儀制御ソフトの動作に必要な初期化のため、よく知られた明るい星を探しスリットをそちらに向けておく。

観測予定のある天体がどの方向にあるかをステラナビの星座早見版モードで確かめ、観測時に鏡筒が極軸の西に来るか東に来るかを判断してカメラの向きを決定し、観測時の望遠鏡の姿勢に合わせて水冷ポンプからのホースを接続、取り回しを済ませたらカメラコントロールソフトを起動し、時間のかかるカメラの冷却をまず開始する。

ファインダーで名前の分かっているを導入し、その明るさに応じた短時間露光でライトフレームを撮影する。星像が写野中央に来るよう、望遠鏡の向きを変える。目的星が写野の中央に来たら、ステラナビ上で今写っている目的星をクリックし、望遠鏡制御ソフトのシンクロボタンを押す。星図上には望遠鏡の向いている方向を示す赤い円(エンコーダー)が表示され、赤経・赤緯値がデジタル表示される。

星図上で観測対象天体を探し、クリックすると天体名、光度、位置などの記載された情報パレットが開く。天体を常に中央モードにする。ここで自動導入を示す望遠鏡のアイコンを押せばいいのだが、自動導入が不安定なためこれは使わない。情報パレットの赤経・赤緯を見て手動にて(制御ソフトのボタンを押して)目的天体を導入する。

ステラナビを赤道帯表示モードに切り替えると中央に目的天体、その近辺にエンコーダーマークが漂っている。この辺でピント合わせを済ませておかねばならない(合焦作業はできるだけ地平高度の高い星野で行うべきである)。この頃にはチップ温度も設定値に近づいているはずである。

露光時間を 5 - 10 秒に替えてライトフレームを撮り、ステラナビに表示される星の並びと比較して構図を決める。動きの速い天体ではあらかじめ運動方向と速度を調べておく。焦点距離と画面サイズを入力し「写野を表示」させておくとたいへん便利である。

撮影前にパソコンの時計を 1 秒以内に合わせておく。Japan Standard Time というシェアウェアがあり、ネット通信により時間を合わせてくれる。パソコンの横には電波時計が置いてあるからこれだけでも 1 秒の精度は出せると思う。

【パソコン制御でない赤道儀を使う場合】

望遠鏡を名前の分かっている星に向け、ステラナビの情報パレットで赤経・赤緯値を調べて赤経目盛環を合わせる。恒星時駆動の目盛環でない場合は操作が非常に煩雑になってしまうが、よほどの年代物でない限り問題ないだろう。

目的天体の情報パレットに表示される赤経・赤緯方向へ目盛環を頼りに赤道儀の向きを変える。試験撮影して星図と見比べ、無事導入できればよいがそう簡単にはいかない。訳が分からなくなった場合、ファインダーを覗いてみる。3 - 5 等級の星が幾つか見えたらステラナビを地平座標モードにし、画面を上下反転(正立ファインダーならこの操作は必要ない)させる。ファインダーの視野に合わせた「視野円」を表示させ、赤道儀の向きを把握する。撮影画面と星図画面が同定できたら目的天体まで微動装置で追っていく。部分微動の赤道儀ではあまりに離れた位置まで追えないことがある。

☆ 撮影

予報光度に見合う露光時間を設定し、状況によってライトフレームのみ、あるいはオートダーク補正のどちらかを選択する。ライトフレームのみ撮影し、のちに処理するのが望ましい。チップ温度、露光時間が同一であるダークフレームの用意がない場合はオートダーク補正を選択するか、観測が終わってからマスターダークを撮影する。

最初と最後に位置測定のための短時間露光(10 - 60 秒間)を撮る(インターバルを開けるため)。フィルターは無し、或いは赤外が有用と思われる。露光時間が短ければそれだけ精度が上がると思うが実際にはそのとおりにならない。短時間露光で比較星の S / N が低すぎると測定精度が悪化する。

次に測光のためフィルターをかけて撮影する。充分な露光が必要だが私の赤道儀では 240 秒露光以上で追尾不良が目立ってくる。低空では更に短時間露光が必要となる。低空にある天体は通常マトモな測光値など期待できないから適宜露光時間を設定する。

特別な事情がない限り、慌てて連続撮影するとチップ温度がデタラメになってしまうため、次の撮影はチップ温度が安定するまで待った方がよい。

高高度にある天体に限らず、なるべく多数のフレームを撮影しておき、あとでコンポジットして測光すると精度が上がる。撮影中に天体の高度が変わるから高いときに青、低くなるにつれ赤フィルターを用いるのが理にかなっている。

日没間もなく西空に沈もうとする天体では B, V, R, I の順番にフィルターを用いるが、超低空の場合、空が明るいうちから撮影を開始することがあり、その場合は赤外を最初に使ったり、フィルターを変える余裕すらなく赤外あるいは赤のみで撮影を終えることも少なくない。

一つの天体につき数フレーム(最低 3 フレーム以上)撮影し、その場で移動の様子を調べる。予想外の移動天体が写っていた場合、MPChecker にアクセスし、既存の天体が付近にないか調べる。なければ新天体かも知れない!

☆ フラットフレーム撮影

ライトフレームを撮り終えたら望遠鏡の姿勢を変えずにフラットフレームを撮らねばならない。同一光学系でなければならないからフィルターもかける。多少の姿勢のズレは構わないが次の天体を撮るために望遠鏡を大きく振る場合はその前にフラットフレームを撮る必要がある。(現実にはそこまで厳密にする必要はないと思われる)

望遠鏡の筒先に 3 ミリ厚の乳白色アクリル板を被せ、ドームを回転させるかスリットを閉じるかして筒先の向いている方向のドーム壁へ向け 40 ワットの白熱電灯を灯す。露光時間が短いのでオートダーク補正を用いる。

どの程度のカウント数が適当なのかわからないが、飽和する 1 / 3 程度が良いと聞くので 2 万カウント弱になるよう露光時間を調整している。ダークフレームと同様、4 コマ撮って加算平均コンポジット画像を作っておく。

☆ 後かたづけ

カメラの電源をいきなり切っては機械に悪いそうなので、チップ温度をゆっくり戻さねばならない。"Go to Ambient" というコマンドを使う。

常温付近まで上がるのに時間がかかるからその間にノートパソコンで撮影した画像を準備室のデスクトップパソコンへ転送したり、場合によっては一次処理を済ませたりもする。

赤道儀の電源を切り、鏡筒やファインダーに蓋をして保管姿勢にする。冷却ポンプも止め、ホースを外し、カメラが湿っておれば布で拭う。

最後に温度コントロールを切ってカメラをシャットダウンしてからカメラの電源を切る。観測室から出る前にパソコン、赤道儀はじめ全てのコンセントを抜いておく(落雷対策)。

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