Apogee 社製 AP-7p CCD カメラの量子効率曲線(Apogee 社のサイトよりダウンロードした図を印刷し、目盛りを読んで表計算ソフトに入力、図を作成した)
ICAS Enterprises 社製 標準測光用フィルターの分光透過曲線
製品に添付された図を読み、同様に表計算ソフトで図を作成した。CCD カメラの感度がほとんど無くなる 300nm 以下の波長部分は省いた。
添付特性図より U, B, V が Johnson system 準拠、R, I が Kron-Cousins system 準拠であることが判る。
バンド | ピーク | 半値幅 |
---|---|---|
U | 325nm | 70nm |
B | 435nm | 130nm |
V | 550nm | 100nm |
R | 650nm | 100nm |
I | 800nm | 200nm |
フィルターを組み合わせたときの CCD 量子効率曲線(ピンク色の曲線はノーフィルター時のもの)
CCD カメラの量子効率にフィルターの透過率を乗じた値を図表化した。
フィルター単独での透過率特性曲線は、全波長に対し 100% の量子効率を持つ仮想 CCD カメラと組み合わせたときの透過率特性曲線とみなすことができる。市販されている CCD カメラは波長によって異なる(100% 未満の)量子効率をもつ。カメラの量子効率がフィルターの透過率を圧縮していると考えれば、上図は特定の CCD カメラを組み合わせることにより変化したフィルターの透過率特性曲線と考えられる。その変化の具合を下に示す。
バンド | ピーク | 半値幅 | 面積 |
---|---|---|---|
U | 360nm | --- | 1 |
B | 450nm | 100nm | 8 |
V | 550nm | 90nm | 7 |
R | 650nm | 100nm | 9 |
I | 800nm | 180nm | 13 |
AP - 7p を組み合わせるとフィルターの特性は U, B, V, R band でピークが長波長側に少しずれ、半値幅はほとんど変化しない。すなわち色指数の大きい星ほど真の値より明るく測光されることになる。
I band のみピークが短波長側にずれている(800nm 以上の感度が圧迫されている)。すなわち色指数が大きい星ほど真の値より僅かに暗く測光されることになる。
以上はカメラ、フィルターに添付されたデータが正しいと仮定した机上の理論である。
光学系の違いに対する補正
使用する光学系の違いによってカメラに届く波長別の光量が異なるためこれらも補正せねばならないが、光学系のみの補正法を知らない。
標準星野を撮影して検討すれば光学系、CCD チップなどすべてひっくるめた分光特性が求められると考える。
標準星の撮影
U B V R I Photometric Standards (Landolt 1992) を用いると U, B, V, R, I すべてのバンドで比較星が得られる。
標準星野には必ずしも適当な明るさを持つ星があるとは限らない。I バンドで 10 等級程度の明るい星を撮影するとブルーミングを起こす事があり、逆に暗い星でもそのカウントが CCD のリニアリティから外れる可能性がある。撮影直後に比較星のカウントを調べることができるから、リニアリティから外れそうな標準星があればそのカウントがおよそ 20,000 - 40,000 内に収まるように露光時間を決めて撮影した複数フレームを加算コンポジットすれば測定精度が上がる。彗星も同様で、適切な露光時間で撮影されたフレーム数が多いほど良い。
標準星野
Landolt 星野(03 h 53.0 m - 00゜00 ')(透明度 4 / 5、僅かな薄雲あり、地平高度平均 36 度、チップ温度 - 30℃、露光時間 30 秒)を 6 フレーム撮影、加算コンポジットした。
平均ダークフレーム(あらかじめ用意してある 4 フレームから得たもの)と、ライトフレーム撮影終了後に取得した 4 つのフラットフレームにて補正した。測定する恒星はブルーミングがなく、かつ S / N が測定に耐え得ると考えられる明るい星のなかから微光星の近接などがないものを選択した。
画像処理ソフト "MaxIM DL" では Information ウィンドウを表示させ、Information Mode にすると円形のアパーチャーが現れ、右クリックでその半径を 2 - 20 ピクセルまで変化させることができ、左ダブルクリックで枠内の平均、最大、最小カウント等を知ることができ、恒星や小天体の測光に便利である。
今回は半径 8 ピクセルにて標準星四つについて _I 、半径 10 ピクセルにて _O のカウントを測定した。(このサイズの採り方が正しいか否かは不明である。)
右のネガ画像は撮影したフレームを jpeg 化し、ステラナビゲータに表示される標準星の番号を記入したもので、測定すべき標準星を間違えないようにするためのチャートである。
Information を見ると、半径 10 ピクセル Rad = 10 で囲んだ平均カウント Avg. が小さいことが分かる。
測定結果
Star Name Pix_I Count_I Pix_O Count_O Sky Star Count Exp. correction 95 96 200.96 23492.883 314 22509.725 20761.889 548820.644 1097641.287 95 101 200.96 21351.092 314 21166.180 20837.448 103221.988 206443.975 95 105 200.96 21079.051 314 20976.344 20793.754 57333.330 114666.660 95 43 200.96 23023.107 314 22208.871 20761.340 454524.629 909049.259 Pix_I :半径 8 ピクセル円形アパーチャーにおける全ピクセル数 Pix_I = 8 x 8 x 3.14 = 200.96 Count_I :半径 8 ピクセル円形アパーチャーで標準星を囲んだときの平均カウント Pix_O :半径 10 ピクセル円形アパーチャーにおける全ピクセル数 Pix_O = 10 x 10 x 3.14 = 314 Count_O :半径 10 ピクセル円形アパーチャーで標準星を囲んだときの平均カウント Sky :星のない領域、すなわち空の平均カウント (Count_O X Pix_O - Count_I X Pix_I) / (Pix_O - Pix_I) Star Count:バックグラウンドを除いた標準星の合計カウント (Count_I - Sky) X Pix_I 露光時間補正:彗星の露光時間が合計 360 秒、標準星の露光時間が 180 秒なので補正のため標準星のカウント Star Count に 2 を乗ずる。 Star Name Star Count 95 96 1097641.287 95 101 206443.975 95 105 114666.660 95 43 909049.259標準星同士での測定光度差を調べる。
Star Name Star Count I Mag. V-I Mag. Inst Residuals V-I Corrected Mag. 95 96 1097641.287 9.836 0.174 9.836 0.000 9.822 95 101 206443.975 11.815 0.863 11.650 -0.165 11.486 95 105 114666.660 12.488 1.088 12.289 -0.199 12.075 95 43 909049.259 10.179 0.624 10.041 -0.138 9.929 I Mag. :星表記載の I 光度 V-I :星表記載の V-I 値 Mag. Inst :測定された I 光度 Mag. Inst = 9.836 - 2.5 X log (Star Count / Star Count_95 96) Residuals :測定光度と星表光度との差 Mag. Inst - I Mag. V-I Corrected Mag.:V-I 値で補正された光度 Mag. Inst - 0.2182 X V-I + 0.0243ここでは 95 96 星を基準に Residuals を求めたが、これは95 96 星の測定が正確であると言うことを意味するものではない。どの標準星を基準にしても同様の結果が得られる。
V-I を横軸に、Residuals を縦軸に散布図を描くと下記のとおりとなる。
V-I 値の大きな星ほど明るく測定されていること、また、各測定値は回帰直線の上にうまく乗っており、この直線の式が信頼できるものと考えられる。
V-I Corrected Mag. を求めるため使用した値はこの回帰直線の係数である。
過去の実験では、I バンドに於いてこの式はほぼ水平になることが確認されていたが、この画像を撮影した 2002 年 3 月 6 日の西空には、透明度こそ良かったものの、薄雲がかかっていた。このような条件の下では波長のより長い光ほど地上に届きやすいので、色指数を無視できないことになったと考えられる。このような天候下では正確な測光は望めないため観測しない方がマシであろう。
気象条件によっては I バンドでもより赤い星ほどより明るく測定されることが分かった。従って、目的天体を測定する際の比較星として V-I 値の大きな標準星を選ぶと、彗星は実際よりも暗く測定されることになる。彗星の V - I 値があらかじめ分かっておれば、それに近い V - I 値を持つ標準星を使えばよい理屈である。しかし、彗星の V - I 値は V バンドと I バンドで観測してみなければ分からない。
彗星の測定
同日、比較星より少し早い時刻に C/2002 C1 (Ikeya-Zhang) を 20 秒露光で 12 フレーム撮影した。地平高度は 15 度 Z = 75 であった。合計 360 秒の加算コンポジットから測定した平均カウント Count ave. は以下のとおりである。16 ビット階調の最大である約 65,000 カウントを越えているが、加算コンポジットした結果であるからこれはかまわない。
Object Ikeya-Zhang Pixels Count ave. Sky at any 5 spots 15360 98500 93941.594 93805.594 93696.563 93747.609 93721.391 Sky Average 93782.550"MaxIm DL" の円形アパーチャーは最大で半径 20 ピクセルである。この彗星はそれをしのぐ大きさを持つため、Information Mode が使えない。
そこで、Statistics Mode に替えておく。
都合により、コンポジットしていない画像を挙げたのでカウント数が実際の測定値とは異なる。彗星のイメージは Medium Auto Strech でこのように見える。
コントラストを変え、彗星の核付近を浮き上がらせてその座標を控えておく。この例では X: 400, Y: 340。
更にコントラストを変え、コマがどこまで広がっているかを調べる。この例では核付近を通るように細長い四角を描いた。diagonal size 70 に注目し、コマ直径を 70 ピクセルと見積もった。ピクセルあたり 2.74 arcsec であるから、この彗星のコマ視直径は 70 X 2.74 / 60 = 3.2 arcmin となる。コマの右下に見える円形アパーチャーはたまたまここに置いたままだったマウスカーソルの位置であり、コマの広がりを調べる作業とは無関係である。
次に測光を行う。最初に調べた彗星核付近の座標(X: 400, Y: 340)を中心とし一辺が 70 ピクセルとなる正方形を描くように彗星を取り囲み、平均カウント 98500 を求める。
バックグラウンドを測定する。Information Mode に戻し、半径 6 ピクセル程度(このサイズは大きいほどよいと思われるが、微光星が密集する星野では小さくせざるを得ない)にしておき、彗星の周辺をダブルクリックして平均カウントを求め、面積 6 X 6 X 3.14 を乗ずる。五ヶ所程度を測定しその平均を採る。測定の際にはアパーチャーがコマや周囲の恒星ににかからぬよう注意する。
光度の測定
以下に結果を記す。異なる比較星を使用することにより最大で約 0.2 等級の差を生じているが、色指数補正を行うことにより、0.04 等級まで小さくなった。
計算結果の平均は 5.297 等である。
Ref. Star Total Magnitude V-I corrected 95 96 5.297 5.283 95 101 5.462 5.298 95 105 5.496 5.283 95 43 5.435 5.323Total Magnitude を求める計算式は以下のとおりである。
彗星のカウント = (平均カウント - バックグラウンド) X ピクセル数 = (98500 - 93782.550) X 15360 =( 98500 - 93782.550 ) X 15360 彗星の全光度 = 比較星の光度 - 2.5 X log (彗星のカウント / 比較星のカウント)比較星の色指数による補正 (V-I correction) には以下の式を用いた。
Total Magnitude - 0.2182 X V-I + 0.0243
大気吸収補正
彗星の地平高度が 15 度 Z = 75、標準星の地平高度が 36 度 Z = 54 と両者の高度差が大きいので、大気の吸収による減光補正を行わねばならない。今回は大気吸収補正の表から Ave. を使用した。表は気象条件により、夏用、冬用、平均の三種類が用意されている。この表は V バンド用であり、B, R, I 各バンドに対しては補正係数を乗じて用いる。
彗星は天頂距離 Z = 75 にあり、大気により 0.288 等減光する。
同様に、標準星は 0.127 等減光し、その差は -0.160 等となる。減光の度合いは天頂距離が大きいほど強い。彗星のほうが低いから、先に測定した彗星の光度(色指数補正済み)に -0.160 等を加算すると(5.297 - 0.160 = 5.137)色指数、大気吸収の両方を補正した値が求まる。0.1 等の位まで丸めて 5.1 等が報告すべき赤外光度である。
Air mass correction V_a x 0.272 Comet Z 75 1.058 0.288 mag. Standard Star Z 54 0.468 0.127 mag. Correction -0.160 mag.
大気吸収補正の表( V-band ) Z[deg] Ave. Summer Winter 波長による補正係数 I-band: X 0.272 ------------------------------ R-band: X 0.760 0.0 0.275 0.310 0.241 B-band: X 2.000 1.0 0.275 0.310 0.241 2.0 0.275 0.310 0.241 3.0 0.276 0.310 0.241 4.0 0.276 0.311 0.241 5.0 0.276 0.311 0.242 6.0 0.277 0.312 0.242 7.0 0.277 0.312 0.243 8.0 0.278 0.313 0.243 9.0 0.279 0.314 0.244 10.0 0.280 0.315 0.244 11.0 0.280 0.316 0.245 12.0 0.281 0.317 0.246 13.0 0.283 0.318 0.247 14.0 0.284 0.319 0.248 15.0 0.285 0.321 0.249 16.0 0.286 0.322 0.250 17.0 0.288 0.324 0.252 18.0 0.289 0.326 0.253 19.0 0.291 0.328 0.255 20.0 0.293 0.330 0.256 21.0 0.295 0.332 0.258 22.0 0.297 0.334 0.260 23.0 0.299 0.337 0.262 24.0 0.301 0.339 0.264 25.0 0.304 0.342 0.266 26.0 0.306 0.345 0.268 27.0 0.309 0.348 0.270 28.0 0.312 0.351 0.273 29.0 0.315 0.354 0.275 30.0 0.318 0.358 0.278 31.0 0.321 0.362 0.281 32.0 0.325 0.365 0.284 33.0 0.328 0.370 0.287 34.0 0.332 0.374 0.290 35.0 0.336 0.378 0.294 36.0 0.340 0.383 0.298 37.0 0.345 0.388 0.301 38.0 0.349 0.393 0.305 39.0 0.354 0.399 0.310 40.0 0.359 0.405 0.314 41.0 0.365 0.411 0.319 42.0 0.370 0.417 0.324 43.0 0.376 0.424 0.329 44.0 0.383 0.431 0.335 45.0 0.389 0.438 0.340 46.0 0.396 0.446 0.347 47.0 0.404 0.454 0.353 48.0 0.411 0.463 0.360 49.0 0.420 0.472 0.367 50.0 0.428 0.482 0.374 51.0 0.437 0.492 0.382 52.0 0.447 0.503 0.391 53.0 0.457 0.515 0.400 54.0 0.468 0.527 0.410 55.0 0.480 0.540 0.420 56.0 0.492 0.554 0.430 57.0 0.505 0.569 0.442 58.0 0.519 0.585 0.454 59.0 0.534 0.602 0.467 60.0 0.551 0.620 0.481 61.0 0.568 0.639 0.496 62.0 0.586 0.660 0.513 63.0 0.606 0.682 0.530 64.0 0.628 0.707 0.549 65.0 0.651 0.733 0.569 66.0 0.676 0.761 0.591 67.0 0.704 0.792 0.616 68.0 0.734 0.826 0.642 69.0 0.767 0.864 0.671 70.0 0.804 0.905 0.703 71.0 0.844 0.950 0.738 72.0 0.889 1.000 0.777 73.0 0.938 1.056 0.821 74.0 0.994 1.119 0.870 75.0 1.058 1.191 0.925 76.0 1.130 1.272 0.988 77.0 1.213 1.365 1.060 78.0 1.308 1.473 1.144 79.0 1.420 1.598 1.242 80.0 1.552 1.747 1.357 81.0 1.711 1.926 1.496 82.0 1.904 2.143 1.665 83.0 2.144 2.413 1.875 84.0 2.448 2.756 2.141 85.0 2.846 3.203 2.488 86.0 3.384 3.809 2.959 87.0 4.147 4.668 3.626 88.0 5.302 5.968 4.636 89.0 7.229 8.137 6.321 90.0 11.012 12.396 9.6292002.04.26 記