No. 137 <比良>中谷右俣 3・敗退


2001.01.14.Sun.晴れ一時大雪

昨夜の気象情報で「この冬一番の寒気団が接近中」と知り、雪山トレーニングにと、既に二度歩いている比良・中谷右俣を選んだ。車のチェーンを 7 年ぶりに取り出し、装着の練習済み。

0310 起床 飯の炊きあがるのが 4 時なのでメールなど読み書きして時間を潰す。装備を確認、ザックと大きなカバンに荷を分けて車へ。

0520 自宅発(0km) 中央環状・千里中央ジャンクション付近にはオービスがある。三車線のうち真中を走っていたら追い越し車線をエライ速度で追い越していく愛媛ナンバーの車がある。僕がその車の左、車二台分程度後方にいるとき赤いフラッシュが目に入った。さて愛媛ナンバーに呼び出しハガキが行くかあるいは二台とも写っていて呼び出しを逃れることができるか?(紛らわしい写真は証拠にならないので除外されると聞く)まあ僕が呼び出されることはないと思うが。

吹田インターから名神に入り(珍しく異様に車が少ない)京都東インターから R - 161 バイパスへ。坂本から R - 161 に出て湖西を北上する。空はようやく白み始めたばかりで夏の星座がよく見える。天気は良い。

天候が気になるので NHK 第一放送をずっと聞いていたら「強風のため湖西線は堅田以北始発から運転を見合わせている」そうで今日は防風対策だけで済むかなと軽く考える。

堅田を過ぎた付近で正面・比良山塊方向に遠雷。北陸では荒天のとき雷が鳴ると聞いているので大雪は間違いないがさて比良はどうか?ちょっと戸惑う。

びわ湖バレイ入り口に渋滞があり「強風のためゴンドラ運転を見合わせています」の電光掲示。早くから出てきたスキーヤー達、お気の毒に。

湖西道路山側の路側に車をデポする予定だったので荒川から左折しウロウロするが結局木戸集落内に停めることにした。

0630 木戸集落着(80km) 明るくなってきた。上はどうせ雪だろうからあらかじめカッパ上下と新調したばかりのロングスパッツ、薄手の手袋を身につけておく。

比良山系は頂上付近が少し白い程度。青空も見える。このあとの豪雪を予想しろというのは無理な相談だった。

見慣れた田んぼが随分潰され、パワーショベルが入っている。この付近、30 年くらい前は自然に囲まれていたがやがてコンビニやらマンションが乱立しついに田んぼまで消えていくのか。

0710 発(130m) ちらほら雪が降り出した。集落を抜け、湖西有料道路をくぐると打見山方面、びわ湖バレイ方面への案内板がある。湖西道路に沿って北上、やがてつい先ほど車を停めようかと考えた場所を通過。どんづまりの丁字路を左折すれば緩斜面の舗装された林道を登ることになる。雪はない。堰堤を幾つも越え、見覚えのある橋を渡り、荒川峠への分岐をやり過ごして最後の橋を渡る。歩き始める頃降りはじめた雪は本降り(?)になってきてメガネは内から曇り外から水浸しで甚だ視野が悪い。カッパのフッドを被る。

この先ようやく山道らしくなってくる。ここは 3 回来て 3 回道を誤った所。ボロ小屋の先に最後の堰堤があり道を遮られる。ところがボロ小屋の少し手前に右へよじる梯子があるのだ。こいつを毎度見落とす。今日は右手に注意して歩いたのでこの梯子を見逃さずにすんだ。よく見れば赤いビニールテープが巻いてある。これを登り切ったら右へ進み、左にユーターンするルートを進まねばならない(本日、撤退の下り途中はじめて気づく)のだが進路は左。つい左にルートを探してしまう。

この梯子を登るとき、梯子から出ている針金か何かに引っかけたらしくカッパ下、右膝部分を派手に切り裂いてしまった。うーむ、、、

0820 500m 地点 さてブッシュと急傾斜に難儀して一旦梯子上部まで戻り邪魔なピッケルをザックから外す。鉄梯子に手袋が貼付いたので新調したオーバーミトンも着用。これが大きすぎて指がうまく使えず具合が悪い。うーむ、、、 アイゼンも装着する。

一休みの後再びブッシュを抜けようとするがどうも道がわからない。地面には新雪が深くアイゼンも利かないので歩きづらい。向かう方向に間違いはないと思ったが、左下に例のボロ小屋を眺めるうち又あそこまで行ってみようと考えた。梯子を下り、ボロ小屋を越えて間もなく大きな堰堤に阻まれていることを確認。この堰堤を越えれば中谷・左右俣の出合である。

驚いたことについ今しがた登ってきた自分のトレースが消えている。時間あたり降雪量は相当のものらしい。ともあれ方角が決まったのでまた梯子を登りブッシュを突抜ければ藪のない道に出た。そのまま進むと左手にフェンスが現れ、扉を開いて堰堤上に出ることができる。

ブッシュに苦労しているとき右のアイゼンが何度か外れた。 うーむ、、、 アイゼンが外れるとは、、、 カッパもわけの分からぬまま裂けたし、、、 おまけに予想以上の豪雪。今日はヤバイかな?

0930 中谷出合 最後の堰堤を越えると視野が開け、雪のせいで見通しは悪いが左俣と右俣を確認できる。稜線付近はむろん全く見えない。念のためマップを広げて確認し、不安を覚えつつも足は右俣へ向かっている。この付近の積雪約 20 - 30 センチ。フカフカの新雪で石ころを踏んだりするから歩きにくいこと甚だしい。降雪はますます酷く、マップにすらすぐ積もっては溶けるので紙製の 2.5 万図は取り出さず、エアリアのみ使用する。

右俣の入り口まで来てブッシュだらけの上流を見ながら考えた。一旦入り込めば稜線まで登らねばならない。

雪崩に埋まらないか?急峻な稜線付近の新雪を越えられるか?外れたアイゼンを着け直すことができるか?カッパの破れ目から浸水して困ることにならないか?ブカブカのオーバーミトンでピッケルをしっかり掴めるか?

仮に登れたとして下りをどうする?打見山頂上にはゴンドラ駅があるが動いているかどうか分からない。打見山から下るキタダカ谷も雪が深かろう。

集落の外れに置いた車が雪に埋まっていないか?脱出できるのか?

アイゼンが外れたことが一番気になり徹底を決意。すぐ帰るのももったいないし、出合の堰堤上で豪雪をのんびり眺めてから引き返すことにした。

堰堤のフェンスを抜けて下る緩やかな道は自然と右にユータンし、程なく左手に鉄梯子を見つけた。うーむ、、、 そうであったか、、、

梯子を下り、ヤブを抜けて山道に出ると自分の足跡が既に完全に姿を消している。雪は止まない。舗装林道に出る直前、同年輩くらいの山岳会とおぼしきパーティ 5 - 6 名とすれ違った。

「どちらへ行かれますか?」

「左俣αルンゼですわ。雪はどうですかね?」

(はて左俣のαルンゼ?比良の専門書でも買わねばわかるまいなあ)「かなりですよ。つい一時間前、この道を上がってきたんですがもう自分のトレースが消えてます」

「え、あんた登りでしたか」

(こんな沢をいまどき下れるのは超ベテランだけ)「ええ、単独ですし装備に問題があるので帰るところです」

彼らなら装備も知識もしっかりしてるし残り標高差 500 メートル、この豪雪を楽しんで登るに違いないと思うと少し癪にさわる。

さらに下ると今度は 10 名近い高齢のパーティに出会った。話しかけなかったが装備こそしっかりしているとはいえ体力なさそうだしどこへ行くのかちょっと心配。

すっかり雪に覆われた舗装林道をのんびり下り、車のデポ地についたとき目を見張った。

1100 木戸集落着 積雪およそ 20 センチ。車も雪を被っている。細い農道に直交するかたちで停めており、車の横はガレージみたいに石垣状。集落のメインストリートから随分離れていて誰も通ったあとがない。「ガレージから田んぼに落ちないよう右折して下る」ことがこの雪の中できるか?

車の窓、トランクなどに着いた雪を除き、ジャッキアップしてチェーンを着け(タイヤとフェンダーの隙間が狭く手が入らない)、車が出る付近の道路上のみ手で除雪してそろそろと脱出するのに成功したのは一時間後。やれやれ。チェーンの着いている後輪はともかく前輪がいうことを聞かずハンドルを切っても素直に曲がらないので何度もバック、前進、切り返しの連続だった。

ようやく R - 161 に出たら交通量が多いせいだろう滑ることも少なくなった。おまけに晴れてきて眩しく、雪を被った比良が美しい。あー、くやし。蓬莱駅のロータリーでチェーンの緩みを確かめているとき車デポ地に腕時計(作業に邪魔だと外した)を置き忘れたことに気づいた。すぐ引き返し、ハンドルの利くあたりに停めて数百メートルを歩き腕時計回収。そういやチェーンを付けている間も次の部品を探すため振り向けば荷物類がどんどん雪の下に隠れていく速さが怖かった。車に戻り遅い昼食を摂っているときポットがないことに気づく。また取りに戻る。跡形のない綺麗な雪をかき分けて掘り出す。

再び R - 161 に出てみればもはやチェーンは不要の様子。おまけに時速 50 キロ以上では後輪から異音が聞えてくる。チェーンの取り付けが緩いのだろう。適当な路側に車を停め、またジャッキアップしてチェーンを取り外す。やや道路にはみ出していたようで通過する車が怖い。なかにはクラクションを鳴らすやつもいた。こんな所ではねられたらお笑いである。なんともはや、、、

坂本からバイパスに入ると混雑はなく、名神を通ってスムーズな帰宅だった。

1500 自宅着 濡れた車内は放っておいて塗れた荷物を干しながら考えた。何故アイゼンが外れたのか?前のコバが減っているせいか?底が曲がるからか?この状態では大峰など登れない。バンド式アイゼンに変えるかプラブーツを買うかしかあるまい。


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