はじめに
OrbitLife は、判断しません。
OrbitLife は軌道計算専用の電卓です。観測を入力すれば、その観測に最もよく合う軌道要素を返します。 ただしそれだけです。返ってきた数値が物理的に意味を持つかどうかを判断するのは、いつも使う人間の 仕事です。このページでは、その判断について書きます。作者がこのソフトのページの中でもっとも 大切だと考えている内容です。
数字が「合っている」ことと、「正しい」ことは別です。
軌道改良を繰り返すと、残差はどんどん小さくなっていきます。残差が小さいと、その解は「良い解」 に見えます。しかし残差の小ささは、その解が物理的にありうる軌道であることを保証しません。 以下は、OrbitLife を使ううえで特に気をつけてきたことです。
OrbitLife は計算機であり、判断しない
軌道要素を求める計算そのものに、良し悪しの判定は含まれていません。観測に対して数学的に もっともらしい解を返すだけで、それが天体として現実にありうるかどうかは関知しません。 その境界線を引くのは、常に使う人間です。
e がわずかに1を超える解を、安易に信じない
離心率 e が1をわずかに超える、双曲線的な解が出ることがあります。残差は小さく、一見すると 「美しい」解に見えることさえあります。しかし観測の誤差の範囲を考えれば、それは物理的には ありえない軌道である場合が少なくありません。残差の小ささだけで信じてはいけません。
観測が少ない段階の「一般軌道」を、早まって公表しない
観測期間が短く、観測点も少ない段階で求めた軌道を、性急に一般に向けて公表するべきではありません。 一度発表した数字は、そこから先はもう自分の手を離れて一人歩きします。後から訂正が効きにくい ものだと考えて扱う必要があります。
安定するまでは、断定を避けた言い方にとどめる
観測点が増えて軌道が本当に安定するまでは、「周期1000年以下の可能性がある」といった程度の、 余地を残した言い方にとどめるべきです。断定的な言い切りは、まだそれを支えるだけの観測が 揃っていない段階では避けるべきものです。
非重力効果が出たときは、まず向きを確かめる
非重力効果 A₁ は、太陽から外向きを正とします。氷が昇華して噴き出したガスの反動なのですから、 正の値でなければ理屈が合いません。A₁ が負、つまり太陽に向かって加速しているという解が出たら、 それは天体の性質ではなく、計算の側に足りないものがある合図だと考えてください。 摂動計算で落としている項があると、その不足を非重力効果が肩代わりし、残差の上ではむしろ 良い解に見えることがあります。小惑星 (1566) Icarus の記録が、その実例です。
数値を鵜呑みにせず、物理的に妥当かを人間が判断する
OrbitLife が出す数値は、あくまで観測に対する数学的な最適解です。それをそのまま結論として 受け取るのではなく、「これは物理的に妥当か」を都度、人間が判断すること。それがこのソフトを 使ううえで最後まで欠かせない一手間だと考えています。
観測者自身が、22年かけて作ってきたソフトです。
作者は開発者であると同時に、彗星・小惑星を実際に観測してきた観測者でもあります。機能の多くは、 自分の観測を計算する必要から生まれました。観測好期チャートのように観測計画を助ける機能が 入っているのも、開発者が観測者自身であることと無関係ではありません。
Visual C++ .NET の時代から、20年以上にわたって手を入れ続けている個人ソフトです。Version 2 の 初期の版は、面識のある軌道計算者にベータ版として個別に配布するだけにとどめていました。 今回の V2.0.7 が、初めての一般公開版になります。
公開を急いで機能追加が終わらないままになるより、まず一区切りついた形で公開し、そこから機能追加版を 重ねていく方針を取っています。このページに書いた「最後の判断」は、そうして長く使われることを 前提にしたソフトだからこそ、繰り返し書き残しておきたい内容です。