ORBITLIFE V2.0.7 ORBIT DETERMINATION
OBJECT
2008 TC3
MEAN RESIDUAL
1.5577
CLONES
300
P(IMPACT)
100.00%
MIN STEP
10.5
ENTRY
12.78km/s

2008 TC3  ·  落ちた小惑星を、計算しなおす

いつ、どこへ落ちるか。秒と度で出ます。

2008 TC3 は、人類が初めて、落ちる前に見つけて衝突を予報できた小惑星です。 発見からおよそ20時間後、スーダンのヌビア砂漠の上空へ突入しました。 そのときの観測をそのまま読み込んで、衝突の時刻・緯度経度・突入速度、そして 衝突確率までを出すところまでを、1ステップずつたどります。

§01 WHY PROBABILITY

なぜ「確率」でしか答えられないのか。

観測から求めた軌道は「これでほぼ間違いない」という1本ですが、観測には必ず誤差があるので、 本当の軌道はそのまわりにわずかな幅を持っています。何十年も先まで積分すると、 この幅は惑星の大きさよりずっと大きく広がります。だから「当たる/当たらない」とは 言い切れず、確率でしか答えられません。

名目軌道
もっとも観測に合う1組軌道改良が返す軌道要素です。同時に、要素がどれくらいの幅でばらついているかも共分散行列という形で求まっています。
クローン
少しずつ違う軌道その幅にしたがって、名目軌道のまわりに統計的にたくさん作り、全部を並行して未来まで積分します。この1本1本がクローンです。
モンテカルロ法
数えて割る惑星に衝突した(または影響圏に入った)クローンが何本かを数えます。サイコロを何度も振って出方を調べるのと同じ考え方です。
DEFINITION衝突確率

衝突確率 = 命中したクローンの数 ÷ クローンの総数

0本でも「衝突しない」ことにはなりません

命中が0本でも、証明できたのは「その本数で見分けられる範囲では衝突が見つからなかった」 ということだけです。300本なら 1/300(約0.3%)、3000本なら 1/3000(約0.03%)が 見分けられる下限の目安。300本で0本なら、言えるのは「およそ0.3%より大きい確率ではない」までで、 それより小さい確率を否定するには本数を増やす必要があります。

§02 SOLVE

まず、ふつうに軌道を求めます。

STEP 1

観測を読み込んで、軌道改良を収束させる

ここまでは、ほかの天体とまったく同じ手順です。収束させると 平均残差 1.557716 秒角。a = 1.2651889 AU、e = 0.2812245、i = 2°.29630。 分類はアポロ群(地球接近小惑星) ·  TJ = 5.06

2008 TC3 の軌道改良が収束した OrbitLife の画面。Mean residual 1.557716 arc seconds が赤枠で囲まれ、観測一覧の残差の欄も赤枠で示されている。右の最接近欄に 地球 2008/10/7.109 0.00007 AU 10151Km と出ている
この時点で、右の[最接近]欄がすでに答えを出しています。 — 地球 2008/10/7.109、0.00007 AU(10151 km)。 地球の半径は 6371 km ですから、これはぶつかる距離です。

積分間隔の[決定値]に注目

左の列の[積分間隔]が[自動]、その下の[決定値]が 22分30秒になっています。 ふつうの小惑星なら日の単位で足りるところを、地球のすぐそばを通る軌道なので、 ソフトが自分で細かくしています。この話は §06 で続けます。

§03 DETECT

元期を、衝突の先へ動かします。

軌道が求まっただけでは、衝突の時刻も場所も出てきません。 積分をその日より先まで進めて、途中で地球にぶつかるかどうかを見る必要があります。 使うのは、ミニムーンのときと同じ [計算結果から元期を移動] です。

STEP 2

衝突の先の日付を元期に指定して [計算]

MENU表示 → 計算結果から元期を移動
OrbitLife の [表示] メニューを開き、[計算結果から元期を移動(M)] が赤枠で示されている

メニューから。

TOOLBAR元期の移動
ツールバーの「元期の移動」ボタンにマウスを乗せ、ツールチップが出ているところ

ボタンからも同じです。

元期に 2008年10月10.0日 — 落ちた日の3日後 — を入れて [計算] を押します。 積分は、その日まで到達しません。途中で地球にぶつかって止まります。

元期の移動ダイアログに 2008 10 10.0 を入れて[計算]を押した画面。計算ログに「【地球衝突を検出】2008/10/7 2:45 UTC 衝突点の緯度 +21.007度 衝突点の経度 +30.294度 突入速度(地球との相対速度) 12.78 Km/s 検出方式 閾値通過(サンプル間隔 10.5 秒)」と出ている。右側に地球儀が開き、スーダン上空の Impact 点へ橙色のクローンの束が収束している
積分が地球に当たって止まり、そこで地球儀が開きます
衝突時刻
2008/10/7 2:45 UTC閾値を通過した時刻を、前後2ステップから線形補間して求めています。
衝突点
緯度 +21.007° / 経度 +30.294°スーダン、ヌビア砂漠の上空です。
突入速度
12.78 km/s地球との相対速度です。
検出方式
閾値通過(サンプル間隔 10.5 秒)サンプルの間で最接近した場合は「サンプル間最接近」と出ます。どちらで拾ったのかを必ず書きます。

画面に出る2つの但し書き

「指定元期の軌道要素は、その前に地球へ衝突したため表示しません」
2008年10月10日の軌道要素は存在しません。その前に無くなっているからです。
「以下は地球の影響圏(半径 0.006 AU)に入る直前の軌道要素です」
影響圏は「太陽ではなく、その惑星を主天体とみなすべき領域」の目安で、 ラプラスの式 r = d · (m/M)2/5 から求まります。地球では 0.006180 AU(約92.5万km)。その内側では日心の軌道要素が意味を失うので、 入る直前のものを出しています。

地球儀の画面。スーダン上空の Impact 点(2008/10/7 2:45 UTC)へ、橙色の細い線の束が左から収束している。右上に黄道面1.6AUの小窓、左下に凡例、右へ太陽の方向を示す赤い破線、地球の進行方向を示す水色の矢印がある
橙色の束の1本1本がクローンの通り道です。左下に凡例があります — 太い線 = 接近の通り道(公転軌道ではありません)細い線 = 各時刻の真下の地表へ下ろした垂線(高度)。 右上の小窓は黄道面から見た軌道(1.6 AU)。軌跡表示: 最接近−6時間は [範囲+] [範囲−] で変えられます。
§04 PROBABILITY

クローンを300本ばらまいて、数えます。

STEP 3

[系統誤差を見込む]にチェックし、[衝突確率] を押す

[クローン数]は 300 のまま。300本すべてが、同じ一点へ収束しました。

衝突確率の計算結果。計算ログに「【惑星衝突確率(モンテカルロ法)】クローン数 300(有効 300, 不成立 0)/散らばらせ方 点群(共分散にもとづく正規分布) 偏り 3.0倍(100倍でLOVへ切替)/衝突確率 100.00 %(300/300) 対象:地球/95%信頼区間 ±0.00 %/衝突時刻 2008/10/7 2:45:27.664 UTC 〜 2008/10/7 2:45:28.078 UTC」と並ぶ。[系統誤差を見込む]と[衝突確率(P)]が赤枠。右の地球儀は紅海周辺まで拡大され「地球衝突確率 100.00% (300/300)」と表示。最接近欄の 地球 0.00004 AU 6409Km が赤枠
地球儀の見出しが 「地球衝突確率 100.00%(300/300)」に変わります。 最接近は 0.00004 AU(6409 km) — 地球の半径 6371 km の、すぐ上です。
ログに出る項目2008 TC3 の結果
クローン数300(有効 300、不成立 0)
散らばらせ方点群(共分散にもとづく正規分布)偏り 3.0倍
観測の誤差σ0 = 1.560″
衝突確率100.00 %(300 / 300)対象: 地球
95%信頼区間±0.00 %
衝突時刻2:45:27.664 — 2:45:28.078 UTC
名目軌道地球に衝突する(2008/10/7 2:45 UTC)

300本の衝突時刻が 0.414 秒の幅に収まっています。 95%信頼区間は 1.96√(p(1−p)/n) から求めた値で、p = 1 なので 0 になります。

[系統誤差を見込む]
残差に現れない誤差を足す残差は観測どうしの食い違いしか測れません。観測所の位置・時刻・使用星表の系統的なずれは、その観測所の観測すべてに同じだけ乗るので残差には現れません。短時間・単一観測所のデータでは、誤差のほとんどがこの成分です。0.5 秒角を見込み、σ0 を √(σ0² + 0.5²) に置き換えます。共分散を倍率で広げるだけなので、軌道改良をやり直す必要はありません。見込む・見込まないを見比べて判断できるよう、切り替えにしてあります。
点群と LOV
散らばらせ方は2通りふつうは共分散にもとづく正規分布の点群です。ただし観測弧が短いと、決まらないのは「いつそこへ来るか」の1方向だけになり、共分散は細長い紐の形になります。いちばん大きい固有値が2番目の100倍を超えたら、LOV(いちばん決まっていない方向の線)に沿って ±3σ を等間隔に並べる方式へ切り替えます。2008 TC3 は 3.0倍なので、点群のままです。

ソフトが自分から「信用できません」と書く場合があります

σ0 が 10 秒角を超えるとき。共分散は「解の近くでは観測との関係が直線とみなせる」 という前提で作ります。軌道がまだ観測に合っていないうちはその前提が崩れ、共分散は巨大で 意味を持ちません。先に軌道改良を収束させてください。
不成立のクローンが 20% を超えるとき。摂動を振った結果 q < 0 や e < 0 になった クローンは捨てますが、捨てるほど残りは公平な標本でなくなります。 割合を確率とみなせなくなった、という意味です。

§05 LOOK

地球儀で、突入を見ます。

STEP 4

視点を変える・動かす・書き出す

[見上げ1] [見上げ2] は、地平線を画面に入れて空を見上げるような構図を作ります。 突入がどの角度から来たのかが分かります。

[見上げ2] を押した地球儀。地平線が画面の上のほうに来て、Impact 点の向こう側から橙色のクローンの束が降りてくる構図になっている
[見上げ2] の構図。地表すれすれから見上げています。

[アニメ] を押すと、小惑星が地球へ近づいていく様子が再生されます。 時刻が画面に出ます。

[アニメ]で再生中の地球儀。左に小惑星、右に地球が小さく描かれ、黄色い線で結ばれている。2008/10/07 01:14 UTC と表示され、両方に進行方向の矢印が付いている
衝突の1時間半前。小惑星と地球のそれぞれの進行方向が出ます。
引いた視点の地球儀。橙色のクローンの束が扇状に大きく広がりながら地球の Impact 点へ収束している。[動画保存(V)] が赤枠で囲まれている
引くと、束が扇のように広がって見えます。 これが「観測の誤差の幅」そのものです。それが1点へ収束するので、確率が 100% になります。
動画の保存ダイアログ。ファイル名 Globe-2008_TC3-Earth2008-Oct-7.1.mp4、種類の一覧に MP4動画(幅1280px・1920px・2560px)とアニメーションGIF(幅640px)が並ぶ
[動画保存] の既定の名前は Globe-2008_TC3-Earth2008-Oct-7.1.mp4。 先頭の Globe と、衝突した惑星・日付が入ります。
§06 UNDER THE HOOD

秒で言える理由 — 積分間隔。

[計算ログ] タブに、名目軌道の積分間隔がそのまま残っています。 0.5日から始まり、地球に近づくにつれてソフトが自分で細かくしていきます。

計算ログのタブ。「【積分間隔のログ(名目軌道)】積分開始 2008/09/11.00 → 2008/10/10.00 積分間隔 0.5日」から始まり、0.25日・3時間・1.5時間・45分・22分30秒・11分15秒・5分37.5秒・2分48.75秒・1分24.375秒・42.1875秒・21.09375秒と刻まれ、最後の 2008/10/07.11 積分間隔を 10.5469秒 に変更 の行が赤枠で囲まれている
最後は 10.5469 秒基準 0.5日 の 1/4096 です。 「実際に使われた最小の積分間隔」として、下にまとめが出ます。

衝突の検出そのものは、この間隔でサンプルした位置を見ています — §03 の「サンプル間隔 10.5 秒」がそれです。 秒の単位で時刻を言えるのは、そこまで刻んでいるからです。 全区間をこの間隔で固定して計算し直したいときは、[積分間隔]で「10.5秒」を選びます (計算量の概算も画面に出ます)。

§07 CHECK

答え合わせ。

2008 TC3 は実際に落ちた天体なので、計算した値を公表されている値と比べられます。 これは、そう多くない機会です。

OrbitLife の計算公表されている値
突入時刻 (UTC)2008/10/7 2:452008/10/7 02:46
突入速度12.78 km/s12.8 km/s
場所+21.007°, +30.294°スーダン・ヌビア砂漠
ただし

合っていたことが、次も合うことを保証するわけではありません

2008 TC3 は、衝突の20時間前まで観測があるという、極めて恵まれた条件の天体です。 落ちる何年も前の、短い観測弧しかない天体で同じ計算をすれば、クローンの束は 地球を大きく外れて広がり、確率は小さな数字になります。そちらが普通です。 100.00% という数字は、この天体のこの観測でそうなった、というだけのことです。 — 最後の判断

同じ計算は、あと11個ぶんできます。 落ちる前に見つかった小惑星は 2026年5月までで12個。観測はどれも MPC に残っていて、 OrbitLife から直接受信できます — 落ちる前に見つかった小惑星

§08 NEXT

となりの画面。

§09 SOURCES

2008 TC3 について。

軌道要素・残差・衝突時刻・緯度経度・突入速度・衝突確率・積分間隔は、すべて上の画面のとおり OrbitLife で計算した値です。発見と落下の事実は次によります。

DISCOVERY
2008 TC3 (Wikipedia)2008年10月6日 06:39 UTC、カタリナ・スカイサーベイの Richard A. Kowalski が発見。同10月7日 02:46 UTC にスーダンのヌビア砂漠上空へ突入。直径 4.1 m、突入速度 12.8 km/s。地球に落ちる前に衝突が予報された最初の小惑星で、回収された隕石は Almahata Sitta と名づけられました。ja.wikipedia.org  ·  日本語版  ·  en.wikipedia.org  ·  英語版