ORBITLIFE V2.0.8 ORBIT DETERMINATION
OBJECT
2024 PT5
MEAN RESIDUAL
0.635833″
GEO TRACK
3695点
SPAN
2023.8〜2026.2
EXTENT
3872万km
CLOSEST
0.00377AU

2024 PT5  ·  地心軌道図をたどる

地球のまわりを回って、去っていく。

軌道図の [地心] にチェックを入れると、太陽ではなく地球を中心にした図に変わります。 この図がいちばん働くのは、惑星に一時的にとらえられた天体 — ミニムーンのときです。 ここでは 2024 PT5 を題材に、観測を読み込むところから、地球へ巻きついて離れていく1本の軌跡が 画面に出るところまでを、ひと続きの手順としてたどります。

§00 WHY

この図に、特別な計算は要りませんでした。

地球を中心にした軌道を描くには、重力の中心を太陽から地球へ移すような、大がかりな改良が 要るだろうと考えていました。実際には要りませんでした。

摂動計算は、積分の各ステップで摂動体ごとに「天体の日心座標 − 惑星の日心座標」を すでに計算しています。地球のぶんが、そのまま地心直交座標です。 あとはそれを控えておいて、点を順に結ぶだけでした。

だから [地心] の図は、ほかの軌道図と性格が違います。2体近似の円錐曲線ではなく、 摂動計算が実際に通った点そのものです。地球のまわりを何周も回るような形は、 1本の円錐曲線では表せません。この図でしか見えないものです。 —— 画面に出たときのことは、忘れられません。

先に読んでおくと分かりやすいページ

軌道図の機能と操作方法に、この画面の操作(回転・拡大縮小・ 平行移動・リセット)と、[地心] まわりの各ボタンの意味をまとめてあります。 軌道計算そのものが初めての場合は、先に使い方を一度通してください。

§01 OBJECT

題材 — 2024 PT5。

2024年8月7日、南アフリカ・サザーランドの ATLAS が発見した地球接近小惑星です。 直径は 10 メートル級(見積もりには 5〜42 m の幅があります)。2024年9月29日から11月25日にかけて 地球に一時的にとらえられ、2025年1月には月への衝突で飛び出した破片だとする研究が出ました。 OrbitLife で自力で計算できる、数少ないミニムーンのひとつです。

OrbitLife での計算では、地球への最接近は 2024年8月8.875日、0.00377 AU(約56万km)。 月への最接近が 2024年8月13.0日、0.00333 AU でした。

§02 SETUP

まず、空の図を出しておきます。

STEP 1

観測を読み込み、[地心] にチェックを入れる

軌道図を開き、右下の[地心]にチェックを入れます。まだ何も計算していないので、 図には月の軌道だけが描かれ、何をすれば軌跡が貯まるのかが書いてあります。 ここが出発点です。

2024 PT5.obs を読み込んだ OrbitLife の画面。手前の軌道図に「地心の軌跡がありません。軌道改良か[計算結果から元期を移動]を実行すると、地心0.05 AU(月までの約19倍)の内側を通った区間が記録されます。」と表示され、地球と月の軌道の円だけが描かれている。右下の[地心]チェックボックスが赤枠で囲まれている
「地心 0.05 AU(月までの約19倍)の内側を通った区間が記録されます」。 記録は、積分が通ったところにしか貯まりません。この一文が、あとの STEP 9 につながります。

STEP 2

3点を選んで暫定軌道決定

最終観測から2週間〜1か月ずつさかのぼった3点を選びます。仮の軌道が1つ決まりました。 a = 1.0084514 AU、e = 0.0154236、i = 1°.48333、P = 1.01年。 アポロ群(地球接近小惑星) ·  TJ = 6.04 という分類が付きます。 残差はまだ 1400〜3500 秒角あります。

暫定軌道が決まった画面。軌道要素は Epoch 2025 Feb. 14.0 TT、a=1.0084514、e=0.0154236、Incl=1.48333、P=1.01。軌道分類はアポロ群(地球接近小惑星) a=1.01 AU, TJ=6.04。観測一覧の残差は1641.3や3581.3など桁が大きい
元期は 2025年2月14.0 TT。この時点の残差は 1641″.3  ·  3581″.3 — まだ度の単位です。
§03 CONVERGE

いったん外して、収束させます。

STEP 3

合わない観測を、選んで強制リジェクトする

2024年7〜8月の観測 — 発見された頃のものです — の残差が 179,986 秒角。度に直すと 約50度です。この観測を抱えたままでは改良が 進みません。一覧でその範囲を選び、右クリックから [選択した観測を強制リジェクト(R)] を選びます。

観測一覧の2024年7月から8月の行を範囲選択し、右クリックメニューを開いたところ。「選択した観測を強制リジェクト(R)」が先頭にある。選択された行の残差は179986.5や307705など極端に大きい
2024年7月31日の残差 179986″.5。3点から作ったばかりの軌道は、 半年前の空のどこにいたかをまだ知りません。
強制リジェクト後の画面。外された観測の残差が括弧付きになり、[印]欄に RF が付いている
外れた観測は残差が括弧付きになり、[印]欄に RF が付きます。 外すことは、消すことではありません。あとで戻します。

STEP 4

改良を繰り返す — ここで軌跡が現れる

残った観測で [手動] を押していきます。摂動計算が1回走るたびに、地心 0.05 AU の内側を 通った区間が記録に足されていきます。最初の軌跡が図に出るのは、この瞬間です。

軌道図に初めて黄色い軌跡が現れた画面。「地心の軌跡 2024/7/30 〜 2025/2/15 (802 点)」「記録の広がり 324 万km (月までの距離の 8.4 倍)」と表示され、地球と月の軌道の外側を大きな曲線が通り、2025/2/15 の日付が添えられている
地心の軌跡 2024/7/30 〜 2025/2/15(802 点)。 記録の広がりは 324 万km、月までの距離の 8.4 倍です。

さらに改良を重ねると、点が増え、線が滑らかになり、地球の近くで折り返す形が 見えてきます。1593 点、386 万km、月までの距離の 10.0 倍。

改良を重ねたあとの地心軌道図。1593点、386万km、月までの距離の10.0倍。上下に細長い輪が地球のそばで閉じかけている
同じ天体・同じ画面で、点が 802 から 1593 に増えました。 記録は改良のたびに足されていきます。

この天体は [手動] だけで収束しました — 15回ほど

軌道改良は [手動] が通常です。1回押すごとに残差が下がり、多くは2〜3回で収束します。 2024 PT5 は15回ほどでした。[自動] は使っていません。 ミニムーンだから [自動] が要る、ということはありません。
相手によっては、1回の改良で残差がわずかしか下がらず、十分小さくするのに数百回 押すことになります。そのときは[自動停止]のチェックを外して [自動] を押し、 下がらなくなったら [中止]。使い分けは使い方のページに 書いてあります。

収束した画面。Mean residual 0.635833 arc seconds、1/a = 0.9865105489 +/- 0.0000008010、P = 1.021 +/- 0.000 years、V = 29.536 km/s と表示され、右の最接近欄に 地球 2024/8/8.875 0.00377 AU、月 2024/8/13.000 0.00333 AU が並んでいる
収束。平均残差 0.635833 秒角。1/a = 0.9865105489 ± 0.0000008010、 P = 1.021 ± 0.000 年、V = 29.536 km/s。積分間隔の決定値が 3時間まで細かく なっているのは、地球のすぐそばを通る軌道だからです。
§04 NON-GRAV

外した観測を戻し、太陽光圧を解きます。

STEP 5

全て有効化して、非重力効果を計算に入れる

STEP 3 で外した観測を戻します。一覧を選んで右クリック、 [選択した観測を全て有効化(E)]。

観測一覧の右クリックメニュー。「選択した観測を全て有効化(E)」が赤枠で囲まれている
強制リジェクトは、いつでも取り消せます。

そのうえで、画面下の[非重力効果]の[計算する]にチェックを入れて改良します。 A₁ = 0.0059336、A₂ = 0.0008430。戻した2024年の観測が、0″.1〜4″.4 に収まりました。

非重力効果の[計算する]にチェックが入り、A1=0.0059336、A2=0.0008430 と表示されている。2024年7月から8月の観測の残差は 0.1 から 4.4 秒角に収まっている
A₁ = 0.0059336、A₂ = 0.0008430。氷の種類は[水氷]のまま。

小惑星に非重力効果を入れる理由 — 太陽光圧

彗星の非重力効果は、氷が昇華して噴き出すガスの反動です。2024 PT5 は小惑星ですから、 噴き出すものはありません。それでも非重力効果が効きます。 直径10メートル級の小さな天体では、太陽の光が当たる圧力そのものが無視できないからです。
A₁ は太陽から外向きを正とする量です(Marsden ら 1973 と同じ規約)。光に押されるなら 外向き、つまり正の値で出るのが筋で、実際に正で出ました。符号が理屈と合っています。

ただし、符号が合っていることは必要条件にすぎません

パラメータを2つ増やせば、残差はほぼ必ず下がります。下がったこと自体は、 その力が実在する証拠にはなりません。A₁ が負に出たときに「計算の側に足りないものがある合図」 と読むのと同じ厳しさで、正に出たときも扱ってください — 最後の判断、 そして(1566) Icarus の記録。

STEP 6

しきい値を決めてリジェクトする

全体が数秒角まで下りてきたので、あらためて[リジェクト]のしきい値を 3.0 秒角に 設定して押します。残差の大きいものに R が付きます。 ここから先は [手動] で仕上げていきます。

リジェクトのしきい値欄に 3.0 を入れて[リジェクト]ボタンを押したところ。残差の大きい観測の[印]欄に R が付き、残差が括弧付きになっている
しきい値は年で区切って2本立てられます。精度の違う古い観測を、 一律に切り落とさずに済みます。
§05 EXTEND

軌跡を、観測期間の外へ伸ばします。

STEP 7

いまの軌跡を見る

[地心]の図に戻ります。1593 点、386 万km。上下に細長い輪が、地球のそばで閉じかけています。 ただし、ここに描かれているのは観測のある期間だけです。

地心軌道図。2024/7/30〜2025/2/14 の1593点、386万km、月までの距離の10.0倍。右下の[地心]チェックボックスが赤枠で囲まれている
月の軌道の円が、大きさの目安として一緒に描かれます。

STEP 8

[範囲] を広げる

既定の 0.05 AU は月までの距離の約19倍。とらえられている間の動きはこれで収まりますが、 地球から離れていく区間はそこで切れてしまいます。2024 PT5 のように地球の近くを 出入りする天体では、[範囲] を広げると外へ出た区間もつながります。 ここでは 1 AU を選びました。

軌道図の[範囲]コンボボックスを開いたところ。0.05 AU・0.1 AU・0.2 AU・0.5 AU・1 AU・2 AU・5 AU が並び、1 AU が選択されている
0.05  ·  0.1  ·  0.2  ·  0.5  ·  1  ·  2  ·  5 AU の7段。

STEP 9

[計算結果から元期を移動] で、積分そのものを伸ばす

ここが、この手順のいちばんの勘所です。記録は、積分が通ったところにしか貯まりません。 観測期間の外を描きたければ、積分を伸ばすしかありません。そのための道具が [計算結果から元期を移動] です。

MENU表示 → 計算結果から元期を移動
OrbitLife の [表示] メニュー。[計算結果から元期を移動(M)] が赤枠で示されている

メニューから。

TOOLBAR元期の移動
ツールバーの「元期の移動」ボタンにマウスを乗せ、ツールチップが出ているところ

ボタンからも同じです。

まず過去へ。最初の観測は 2024年7月31日ですから、それより前の 2023年8月1.0日を元期に指定して [計算] を押します。

「予報軌道の計算・元期の移動」ダイアログ。Epoch(元期) に 2023 8 1.0 が入力され、適応範囲 -13001/12/9〜17000/1/11 と表示されている。[計算(C)] ボタンが赤枠で囲まれ、背後の観測一覧の先頭行 2024 07 31.127192 が丸で囲まれている
最初の観測(2024年7月31日)より前へ戻します。 適応範囲は紀元前 13001年から西暦 17000年まで。
元期を過去へ移したあとの地心軌道図。2023/8/1〜2025/2/16 の2985点、記録の広がり 3872万km(月までの距離の100.7倍)。大きく開いた渦が地球へ向かって巻き込んでいる
2023/8/1 〜 2025/2/16(2985 点)、3872 万km  ·  月までの距離の 100.7 倍。地球へ近づいてくる道筋が出ました。 この縮尺では月の軌道は点になるので、もう描かれません。

次は未来へ。同じ手順で、今度は 2026年2月1.0日を元期に指定します。

元期の移動ダイアログに 2026 2 1.0 を入力して [計算] を押すところ。下に Epoch 2026 Feb. 1.0 TT = JDT 2461072.5 の軌道要素が出ている
元期の移動は何回でも掛けられます。記録は捨てられず、足されていきます。
前後に伸ばしたあとの地心軌道図。2023/8/1〜2026/2/1 の3695点。地球へ渦を巻いて近づき、地球のそばで大きく1回転して、また離れていく1本の曲線。2025/11/3 の日付が添えられている
2023/8/1 〜 2026/2/1(3695 点)。 近づいてきて、地球のそばで大きく1回転し、また離れていく — ここまでが1本の線でつながりました。
§06 LOOK

回して、寄って、立体で見ます。

STEP 10

視点を動かす

左ドラッグで回し、ホイールで寄ります。平面に落とすと重なって見える線が、 角度を変えると別々の高さを通っていることが分かります。

視点を寝かせた地心軌道図。手前から奥へ抜ける線と、地球のそばで折り返す細長い輪が重なって見える。2025/2/14 の日付が添えられている
視点を寝かせたところ。月の軌道の円が、傾いた楕円として見えます。
地球のまわりの輪を拡大した地心軌道図。2025/2/14・2025/6/25・2025/11/3 の日付が軌跡に添えられ、下端の[さかのぼり60日][速さ2倍][動画保存]が赤枠で囲まれている
要所には日付が入ります。2025/2/14  ·  2025/6/25  ·  2025/11/3。いつどこにいたかが図の上で読めます。

地心モードの [アニメ] と [動画保存]

地心の軌跡は「いつからいつまで」を描いた1本の曲線なので、進めて見せる対象がありません。 そこで地心モードの [アニメ] は、地球を中心に視点を1周させます。9秒で1周です。 [さかのぼり]は使いません。[速さ]は書き出しのコマ数に効き、2倍なら動画の長さが半分に なります。終端で止める余韻も入りません — 1周して元の向きに戻るので、 途中で止めると繰り返し再生のつながりが切れるからです。

動画の保存ダイアログ。ファイル名 Geo-2024_PT5-Spin2026-Feb-1.0.mp4、ファイルの種類の一覧に MP4動画(幅1280px)・MP4動画(幅1920px・FHD)・MP4動画(幅2560px・WQHD)・アニメーションGIF(幅640px) が並んでいる
既定の名前は Geo-2024_PT5-Spin2026-Feb-1.0.mp4。 先頭の Geo と Spin で、 日心モードの動画(Orbit…Epoch…)と 区別が付くようにしてあります。

STEP 11

立体視で、輪の手前と奥を分ける

右下の選択を[平行法]または[交差法]にすると、視点を左右に 2.5° ずつ振った2枚が 並びます。地心の軌跡は立体視の題材として理想的です。点と線だけで、写真のような 模様の食い違いが無いので、輪の手前と奥がはっきり分かれます。

地心軌道図の立体視表示。同じ渦の図が左右に並び、中央に細い仕切り線が入っている。右下の選択が[交差法]になっている
[交差法](寄り目で見る)。[平行法]は左の絵を左目で見ます — 遠くを見る目つきです。
地球のそばの輪を拡大した立体視表示。左右に同じ図が並び、2025/2/14 と 2025/6/25 の日付が添えられている。左下の[アニメ]ボタンが赤枠で囲まれている
寄ってから [アニメ] を押すと、立体のまま視点が1周します。 ここがいちばん面白いところです。
§07 RH120

2006 RH120 も、自力で解けました。

2024 PT5 は、地球のそばで1回転して去っていきました。 2006 RH120 は、2006年の半ばから2007年の夏までのおよそ1年、地球にとらえられ、 そのあいだに地球のまわりを何周も回った天体です。直径は2〜3メートルと見られています。

このページの初版には「2006 RH120 は、これからの課題です」と書きました。 その後の改良で、OrbitLife だけで解けるようになりました。 答え合わせの相手は、NASA ジェット推進研究所(JPL)が発表している軌道です。

2006 RH120 の地心軌道図。「地心の軌跡 2006/2/11 〜 2007/8/11 (12070 点)」「記録の広がり 1423 万km (月までの距離の 37.0 倍)」「赤い点 観測 136 件」と表示されている。右上から入ってきた黄色い軌跡が、地球と月の軌道のまわりに大小いくつもの輪を描き、右下へ抜けていく。軌跡には 2006/3/4 から 2007/8/6 まで20日おきに日付が添えられ、観測のある位置に赤い点が並んでいる
地心の軌跡 2006/2/11 〜 2007/8/11(12,070 点)。記録の広がりは 1,423 万km、 月までの距離の 37.0 倍です。赤い点が136個の観測。観測はすべて、とらえられていた期間の内側にあります。 「とらえられる前か後の観測で軌道を決めておく」という逃げ道が、この天体にはありません。
2006 RH120 を解いた OrbitLife の画面。Epoch 2007 Feb. 22.0 TT、Mean residual 0.744833 arc seconds、軌道分類はアテン群(地球接近小惑星)。非重力効果の[計算する]と A3 にチェックが入り、A1=0.0134908、A2=-0.0052435、A3=-0.0015486。積分間隔の決定値は45分。右の最接近の欄に 地球 2007/6/14.219 0.00185 AU 276839Km、月 2007/3/23.812 0.00194 AU 290225Km が並んでいる
136観測すべてを使って、平均残差 0.744833 秒角。非重力効果は A₁・A₂・A₃ の3つを解いています。元期は Epoch 欄で 2007年2月22.0日 を指定しました。 最接近は月が 2007/3/23.812 の 29.0 万km、地球が 2007/6/14.219 の 27.7 万km。 積分間隔の決定値は 45分まで細かくなっています。

COMPARE

JPL の軌道と比べる

JPL の軌道解(#54)から、同じ元期 2007年2月22.0日 TT の位置と速度を取り出して比べました。

比べたものOrbitLife と JPL の差
日心位置2.9 km
速度2.8 mm/s
近日点通過時刻 T0.00023 日(20 秒)
近日点距離 q2.1 × 10−7 AU(約 31 km)
離心率 e9 × 10−8
軌道傾斜角 i小数5桁(0°.58585)まで一致

このとき 2006 RH120 は地球から 130.7 万km のところにいます。 2.9 km の差は、地球から見て 0.46 秒角以下 — 観測1個の誤差より小さい差です。

非重力効果(au/日²)OrbitLifeJPL(±1σ)
A₁(太陽から外向き)+1.349 × 10−10+1.407 ± 0.083 × 10−10
A₂(進行方向)−5.24 × 10−11−4.91 ± 0.71 × 10−11
A₃(軌道面に垂直)−1.55 × 10−11−1.20 ± 0.35 × 10−11

3つとも、JPL の誤差の範囲に入りました。画面の A₁ = 0.0134908 は、この値を 10−8 au/日² 単位で表したものです。 A₁ が正 — 太陽の光に外へ押されている向きです。

ぴったり同じにならない理由

JPL は136観測のうち132観測を使い、観測ごとに重みを付け、星表の系統誤差も補正しています。 OrbitLife は136観測すべてに同じ重みです。JPL の残差 0.414 秒角は重み付きの値なので、 OrbitLife の 0.745 秒角とそのまま比べることはできません。
そこで同じ物差し(136観測・重みなし)で測ると、JPL の軌道は 0.81 秒角、OrbitLife の解は 0.745 秒角 でした。この物差しでは、これ以上良い解はもう無いところまで来ています。 残った数 km は、改良の詰めの足りなさではなく、物差しの違いです。

2006 RH120 の日心軌道図。Epoch 2007 Aug. 12.0 TT。水星・金星・地球・火星の軌道の円が描かれ、2006 RH120 の赤い軌道が地球の青い軌道とほとんど重なっている。2006 RH120 と地球が並んで描かれている
地球を離れたあとの 2007年8月12.0日 TT。赤が 2006 RH120、青が地球の軌道です。 ほとんど重なっています。地球とほぼ同じ軌道を回っているからこそ、ゆっくり近づき、 地球にとらえられることが起きます。

DYNAMICS

何が効いたのか — 少し専門的な話

最接近のころ、2006 RH120 は地球から 27.7 万km。この距離では1 秒角が 1.3 km にあたります。 観測所の位置が数 km 違うだけで、残差が数秒角動きます。ふつうの小惑星なら気にしなくてよい小さな誤差が、 ここでは全部表に出ます。解けるようになるまでに、次のものが必要でした。いちばん効いたのは、最初の項目です。

元期の置き場所
いちばんの決め手 — 元期を、使っている観測の中に置く最初の3点(2006年9月11日〜15日)で出した軌道を、その16観測で改良します。元期が 9月22日(観測の外)のままだと、1回目の改良で平均残差が 12,122 秒角へ跳ね、53〜67 秒角から先へ進みません。Epoch 欄に観測の中の 9月13日を入れると、113 → 8.4 → 3.7 → 2.5 → 0.96 秒角と素直に下がりました。観測を増やすたびに元期も中ほどへ移します(11月1日、12月30日)。とらえられている天体は地球と月に強く振り回されるので、観測の外の元期から積分すると、改良の足場そのものが崩れます。
観測所の位置
観測所の位置にも、歳差・章動を掛けるOrbitLife はもともと彗星の軌道計算を主な用途にしてきました。遠くの彗星では、観測所が地球の上のどこにあるかの細かな違いは結果にほとんど効かないので、観測所の位置には歳差・章動を掛けていませんでした。地球接近小惑星やミニムーンでは事情が変わります。天体が近いほど、観測所の位置の精度がそのまま残差に出ます。そこで、地球の自転軸の向きの変化(歳差・章動)まで入れて、観測所の位置を観測したその時刻の向きで求めるようにしました。
地球と月の質量比
JPL の惑星暦 DE441 の値に合わせる地球と月の質量を、JPL の惑星暦 DE441 の値(質量比 81.3006)に合わせました。ふつうの天体では違いが出ませんが、地球と月のあいだに入り込む天体では効きます。JPL の軌道から4か月さかのぼって観測と比べると、平均残差が 92.5 秒角から 0.81 秒角になりました。
太陽光圧 A₁〜A₃
小惑星なのに[非重力効果]と[水氷]上の画面では、小惑星なのに[非重力効果]の[計算する]にチェックが入り、氷の種類が[水氷]になっています。ここで解いているのは、氷の昇華ではありません。直径2〜3メートルの小さな天体では、太陽の光の圧力が軌道に効きます。太陽から外向きに押す力で、A₁ に表れます。さらに、自転する天体は、日なたで温まった面が自転で夕方の側へ回ってから熱を放つので、その反動で進行方向にも力を受けます(ヤルコフスキー効果)。A₂ や A₃ には、こうした自転による影響が表れていると考えられます。
OrbitLife の非重力効果の式は、彗星の水氷の昇華の式(Marsden 型)です。この式の太陽からの距離による変わり方は、1 AU の近くでは光の圧力の 1/r² とほとんど同じです。2006 RH120 は太陽から 0.996〜1.037 AU にしかいないので、違いは 1% 以下。水氷の式で、光の圧力と自転の影響を近似できます。A₁ を加速度にすると約 2.7 × 10−9 m/s² です。

皆さんも、計算してみてください

観測は [ファイル]-[MPCから観測データを取得] に「2006 RH120」と入れれば、136個がそろいます。 ヒントは3つ — 最初の3点はせまい範囲から選ぶこと、非重力効果、そして Epoch の手動入力です ([オプション]-[元期をEpoch欄で指定する])。3点を9月の広い範囲から取ると、軌道がそもそも求まりません。 9月11日〜15日のような数日の中から選び、残差の小さい観測だけを残して、少しずつ増やしていきます。 上の JPL との比べ方が、そのまま答え合わせになります。

§08 SOURCES

2024 PT5 と 2006 RH120 について参照したもの。

発見・大きさ・一時捕獲の期間・月起源であること、そして 2006 RH120 の答え合わせに使った JPL の軌道は、以下によります。 軌道要素・残差・接近距離・軌跡の点数は、すべて上の画面のとおり OrbitLife で計算した値です。

DISCOVERY
2024 PT5 (Wikipedia)発見日・発見者・推定直径・一時捕獲の期間・最接近距離。ja.wikipedia.org  ·  日本語版  ·  en.wikipedia.org  ·  英語版
ORIGIN
The Discovery and Characterization of Minimoon 2024 PT₅Bolin ら、The Astrophysical Journal Letters、2025年1月。月起源であることを示した論文。iopscience.iop.org  ·  10.3847/2041-8213/ada1d0
2006 RH120
JPL Small-Body Database  ·  軌道解 #54132観測・非重力効果 A₁〜A₃ の値と誤差。ssd.jpl.nasa.gov  ·  SBDB
JPL との比較
JPL Horizons2007年2月22.0日 TT の日心の位置・速度と接触軌道要素を取り出し、OrbitLife の解と比べました。ssd.jpl.nasa.gov  ·  Horizons