赤い長方形をしたHD 44179星雲の撮影に挑戦

 天体というと、多くは丸またはそれに近い形状をしているか、不規則な形状をしているものですが、今回は「赤くて四角い」という極めて珍しい天体のお話です。
 まず下の天体写真をご覧ください。明るい恒星を中心に四角錐になっているように見られます。この画像を初めて知ったのは、2004年5月14日のAstroArtsウェッブサイトのハッブル宇宙望遠鏡が捉えた、宇宙に広がる赤いはしご(HD 44179星雲)でした。


Dying Star HD 44179, the “Red Rectangle,” Sculpts Rungs of Gas and Dust Credit: NASA; ESA; Hans Van Winckel (Catholic University of Leuven, Belgium); and Martin Cohen (University of California, Berkeley)

 もともとは赤外線天体を捜索する一環でこの不思議な天体が発見されたということですから、可視域のカメラでは写らないのだろうと勝手に決めつけていました。それが、今年の1月に、中古のPENTAX K10Dを購入し、内蔵されている赤外カットフィルターを除去する改造を自分で行いました。もしかしたら、このカメラを使えばなにか気配でも写るかもしれないと期待したのです。フォトコンテストでも見たことがない天体なので、南半球じゃないと見られない天体かもしれないなあと心配でしたが、いっかくじゅう座とおおいぬ座の境界付近にあって、ちょうど都合のよい位置にありました。
 下記に座標を示します。緑色の+マークの位置にあります(撮影した時には下記のような星図で調べていませんでしたので、そこに8.3等の明るい恒星があることは知りませんでした)。


HD 44179の座標

 まず、赤外カットフィルタ除去改造デジカメPENTAX K10Dで15秒程度露出してみました。赤外線が通過するので画面全体がピンク色の画像が表示され、中央付近に明るい恒星がポツンと写っているものの特に怪しい天体は確認できませんでした。これはやはりハッブル宇宙望遠鏡がわざわざ狙うほどの天体だから非常に暗いのだろうと思い、今度は10分露出を2枚写してみました。やはりやたら明るい恒星はあるものの、四角いものは写っていませんでした。
 もしかしたらこの明るい恒星がその天体で、周辺にごく淡く四角い星雲が存在するのかもしれないと思って、今度は冷却CCDカメラSTX-16803Eに交換して高感度モードで撮ってその場で簡単な画像処理してみました。ありました。しかし中央の恒星が明るすぎて四角い星雲部分を覆ってしまうほどです。そこで、高解像モード(感度が低いのでいつもは使わない)で10分露出を2枚撮ってみました。冷却CCDカメラはデジカメより諧調が高いので画像処理を工夫すればどうにか雰囲気は出るのではないかと考えました。
 そして、かなり試行錯誤した結果、下のような画像が得られました。これは冷却CCDカメラ(白黒画像)の高解像画像に改造デジカメで撮ったカラー画像を合成したものです(LRGB合成)。ちょっとカラーバランスが崩れて恒星が水色になってしまいましたが、どうにか四角い星雲の姿は浮かび上がってきました。

[HD44179]
HD44179
70cm F7反射望遠鏡
L画像: STX 16803E, 10分露出2枚
RGB画像: PENTAX K10D(改造), ISO-1600, 10分露出2枚
© 2015 芸西天文学習館

 下は星雲部分の原寸画像です。白黒画像は強烈に画像処理して星雲がどこまで広がっているのかを調べたものです。
 星雲の広がっている部分を明るく写そうとすると中央の恒星付近が白く飛んでしまうし、恒星を鋭利に撮ろうとすると星雲が写らないし、美しく撮るのが難しい天体です。

[HD44179]
HD44179
© 2015 芸西天文学習館

[HD44179]
HD44179 (星雲の強調画像)
© 2015 芸西天文学習館

 ということで、ハッブル宇宙望遠鏡のようにはしご状に広がる星雲は写すことはできませんでしたが、四角く広がる星雲はどうにか撮ることができました。
 この星、最初の星図をご覧いただければわかるようにGSC星表にも掲載されている8.4等の恒星でした。8.4等というと、肉眼で見ることはできませんし、小型の双眼鏡でもちょっと困難だと思います。20cm望遠鏡とか、芸西天文台の70cm反射望遠鏡なら楽に見られるという明るさです。
 デジカメだったら準望遠レンズで楽に撮ることができるので、皆さんもちょっと撮ってみてはいかがでしょうか。もちろん、星雲部分は心の目で見てくださいね。

驚きの星空撮影法: デジタル一眼と三脚だけでここまで写る! 星・月・夜空の撮影術 (玄光社MOOK) デジタルカメラによる天体写真の写し方―基礎からわかるきれいに撮れる



高知県ランキング
上のバナーをポチッと押していただくと著者が元気になりますのでよろしくお願いします。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です