彗星観測者の半日

 10月8日にインターネット回線が開通したので天文関係の速報があるサイトやメールを読みながら観測しました。最新の情報を見ながら観測できるので便利です。これまではメモリースティックに最新の軌道要素を保存したり、MPECのメールを合体させたファイルを作成して持ち運んだりしていましたが、これからはそんな必要はありません。
 またThe NEO Confirmation Pageなど見ながら観測できるのは楽しいです。このページには発見報告があったがまだ確認観測されてない移動天体の位置情報が掲載されています。ですから、まだそんな移動天体が本当に存在するのかどうかわからないので国際天文学連合も正式な彗星名や小惑星名は与えてなくて、発見した天文台がつけた仮の名前で公開されています。新月の前後は暗い天体が観測できるのでたくさん表示されていますが、満月前後はほとんど表示されません。ほとんどの天体は1~3日でこの一覧からは消えます。消えたものは確認観測がされたために正式な天体名が付けられてIAUCやMPECで公開されたものです。しかし、存在しないと判断されたもの(ノイズだったり天体じゃないものなど)もあるのでそれらも消えます(これも結構多いです)。
 8日の夜は雲の多い空で、露出中に雲が通過してまともに観測できないので、The NEO Confirmation Pageを見ていました。するとD1D001という仮の名前が付いた16等級の非常に明るい天体が掲載されているのに気づきました。しかし、雲が多くて写せそうにありません。
 21時まで粘ったものの10個くらいの明るい恒星が見える程度の天気で観測できる状況にはならないので、もう帰ろうと思って観測用PCの画面を消しました。しかしあきらめきれないので再び外に出て空を眺めていると東の方から少し晴れ間が見えてきました。やっぱり、もうちょっと粘ってみようと再び観測用PCの画面をつけて待っていると21時15分に急に星空が広がり始めました。粘り勝ちです。月明かりがあるので明るい彗星に向けて撮像を開始しました。
 いくつかの彗星を撮像しながらYahoo!のウェッブメール(私のメインのメールアドレスに届いたメールはすべてYahoo!のウェッブメールに転送される)を読んでいると、oaa-comet ML(OAA彗星課メーリングリスト)に佐藤裕久さんから先の16等級の移動天体についての情報が流されました。「軌道を計算してみると小惑星とは思えない軌道が計算されたので、もしコマが観測されたら彗星の名前がつくだろう」というものでした。位置を調べると北極星のすぐ近くです。晴れているかどうかはドームの中からは確認できませんでしたが、とにかく望遠鏡を向けて、試しに2秒露出してみるとちゃんと星が写ります。そこで1分露出で3枚撮ってみました。恒星より少し太い感じがするもののはっきりとしたコマや尾は確認できません。そこで今度は思い切って10分露出をしてみました。こんなときの待つ10分間は本当に長いですね。長い10分を待って画面に表示された画像には西に向けた短い尾が写っていました。彗星です!
 彗星の名前が付く前に観測したのは初めてのことで結構感動モノです。世の確認観測者たちはいつもこのような興奮や感動を味わっているのでしょうか(それとも自分が発見したわけじゃないから事務的なのでしょうか?)。とにかく、大急ぎで5枚の画像の位置を測定して共同観測者の関勉さんと村岡健治さんにメールで送信しました。そしてその場で画像処理してこれも関さんと村岡さんに送信しました。
 その後すこしして「やってますか~。雲が多いですねえ」と関さんがドームに現れました。「あれ?変なことを言うなあ、快晴のはずなんだが」と思いながらこの新彗星の画像を見てもらいました。
 2時に帰りついてから、10月2日に見つけていた正体不明の小惑星の予想位置を写した画像から移動天体を探しましたが、見つけられませんでした。自分で計算した軌道が外れたのか、3分露出では写らないほど暗かったかのでしょう(10月2日の発見画像はすべて10分露出でした。しかも月明かり無し)。寝ようと思ったら2時5分にMPEC T88(小惑星センター回報)とIAUC 8993(国際天文学連合回報)が届き、D1D001には彗星C/2008 T2 (Cardinal)と名前が付いたことが分かりました。それから村岡さんに「D1D001はC/2008 T2 (Cardinal)になりましたね」というメールを送信して3時頃寝ました。
 朝6時半に起きてメールをチェックするとすでに村岡さんかが昨夜の観測データを小惑星センターに送信してくれていて、軌道計算もしてくれていました。
 それから昨夜のD1D001=C/2008 T2 (Cardinal)の公開用画像を作成してoaa-comet MLに画像を流しました。
 これが観測している日の生活パターンです。この楽しくも体にきついことを次の雨か曇りの日まで続けるのです。



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